GWって天気がいいよね
大きな赤いバラの花束を抱えて彼がやってきた、
僕にはわかる、これが運命であるということが。僕には、きみのことが手に取るようにわかる、僕たちはわかり合える。さぁ受け取って。共に生きよう。
そしてひざまずく。
「わかってないじゃん」
「え?何?何が?」
「ぜんぶだよ。あなたよくわかるよっていうけど、私の周りのことも私の知らないこともわかってくれないとそんなのわかってるって言わないのに、どうしてわかるよ、なんていうの?それは、その瞬間だけの宝石みたいなもので、あとから売りに出しても価値がないってされるような、お寿司屋さんのおまけのおもちゃみたいな……。だから、おとな、おとなとして扱われる私は、あなたを、あなたの言葉を、信じたらいけないの?」
「きみは完ぺき主義なんだね」
「そんな話はしてないよ」
「海に行こうか?」
「海は嫌い、砂が目にうざったいし、べたべたしてめんどうだし、嫌いな人がいそうだし」
「でもきみは海が好きだって言ってたじゃないか」
「そんなこと言ってたかな、でもそれって服が目いっぱい詰まったクローゼットの前で、服がない!って言ってるのと同じ「好き」だったと思うよ」
「いきなりどうしたの?」
「気温差とか、TPOとか、今日の私の気分、水分量、血流、ホルモンの居所、そういうのにぴったりくる服が着たいのに、でもそんなものはここにはなくて、それで服がない!って叫んでるんだよ。海が好きだって言ったのは、その日の気温と、TPOと、私の気分、水分量、血流、ホルモンの居所が、海が好き!って叫ぶのにぴったりだったからで、いまさら好きだったよね、なんていわれても困るよ」
「二枚舌だって言われたことはある?」
「ないよ、嘘がうまいから。」
「じゃあ海が好きだって言ったのは嘘だってことなのか?それじゃ、僕がわかるよってきみに言ったことのほうがよっぽどほんとうらしくて、信じるに値するじゃないか!」
「あなたのは嘘だもん、思ってないのに言ってるか、わかってないのに言ってるか、どっちにしろほんとう「らしい」だけでほんとうじゃない。私のは、わかってないじゃんも、服がないも、海が好きも、ちゃんとここにあったほんとうだよ」
彼は面白い、というように目を見開いてきらきらにしたあと、疲れたって言って急ぎ足になってそのまま消えってった、私の足元にはバラの花びらが一弁、鮮やかで大きな黄色いバラが好きだ、弱かったのに強くなった色。
私が謝るべきだろうか。謝って拗ねたら面倒だな。でも何も言わないまま過ぎる時間を耐えるのはきらい。
「あなたといると疲れる」